原油価格、ホルムズ海峡封鎖が焦点　WTIが78ドル　米国がイラン攻撃

原油価格が中東情勢の急激な悪化で跳ね上がった。原油先物市場の指標価格であるWTI（翌月渡し）は日本時間23日の取引で一時、1バレル＝78ドル台を記録。5か月ぶりの高値を更新した。アメリカのドナルド・トランプ大統領は22日朝にイランの核施設に対する攻撃を加えたと発表。イランは米国の対応を厳しく批判するとともに今後の対応をロシアと協議するとしており、原油供給混乱の可能性が価格上昇要因となっている。イランからの報復攻撃をめぐっては、中東に展開する米軍施設への攻撃が考えらえるほか、イエメンを拠点とする親イラン武装組織フーシの活動が原油供給網に混乱を与える可能性もある。一方、イランはすでにイスラエルからの攻撃で大きな損害を受けているとみられ、大規模な反撃は難しいとの見方も成り立つ。ただ、イランが石油海運の重要ルートであるホルムズ海峡の封鎖に踏み切った場合には原油価格のさらなる急騰も想定されそうだ。

WTIは一時78.40ドル　5か月ぶりの高値を更新

WTI（翌月渡し、WTI原油）は日本時間23日午前7時に1バレル＝78.40ドルをつけた。ブルームバーグによると、トランプ氏の大統領就任翌日にあたる1月21日につけた78.47ドル以来、約5か月ぶりの高値水準だ。WTIはイスラエルがイランの核施設を攻撃した13日に一時、77.62ドルをつけ、その後、70ドル台半ばでの値動きがつづいていたが、上昇圧力が強まったといえる。

アメリカがイランの核施設を攻撃　トランプ氏は「体制転換」に言及

原油価格を急騰させたのは米国によるイラン核施設への攻撃だ。トランプ氏は日本時間22日午前8時50分、自身のSNSトゥルースソーシャルへの投稿で「イランの3つの核施設に対する攻撃を完了し、大きな成功を収めた」と投稿。「今こそ平和の時だ！」とアピールした。

トランプ氏は19日の段階でイランを攻撃するかどうかを2週間以内に判断するとしていた。今回の攻撃は金融市場の不意をついた形となっている。トランプ氏は日本時間23日朝の投稿では、今のイラン政権がイランを再び偉大にできないのなら、「どうして体制転換が起きない？？？」としている。

イランは「ロシアと真剣な協議」　中東駐留の米軍や紅海通行の船舶への攻撃は？

米国の攻撃を受けて、イラン側は反発を強めている。イランのアッバス・アラグチ外相はトルコで22日、米国の攻撃は「イランの平和的利用を目的とした核施設に対する凶悪な敵対行為」だとし、国連憲章や国際法に違反していると批判。「ロシアのウラジミール・プーチン大統領と明日、真剣な協議を行う」と述べた。

イランの報復攻撃に関しては、中東に展開する米軍が対象になる可能性がある。外交シンクタンク、米外交問題評議会（CFR）によると、米国はクウェート、バーレーン、カタール、アラブ首長国連邦（UAE）、サウジアラビア、イラクなどの中東各国に拠点を持ち、6月13日時点で約4万人が駐留している。

またイエメンを拠点とするフーシはこれまで、アラビア半島の南側にあたる紅海で民間船舶を攻撃し、石油海運を妨害。改めて活動を活発化させた場合には原油価格の上昇要因となりそうだ。ブルームバーグによると、フーシは米国による攻撃前、トランプ政権がイラン攻撃に加わった場合には、紅海を通過する米国の船舶や軍艦を標的にすると表明していた。

イスラエルの報復攻撃の能力は低減か　ホルムズ海峡封鎖なら原油価格急騰も

一方、米CNNによると、イスラエルは22日もイランの軍事施設を攻撃しており、イランの報復攻撃の能力が大きく削がれている可能性もありそうだ。米国のJDバンス副大統領は22日の米NBCテレビでのインタビューで「イランが報復してきた場合の備えはできている」とし、イランが米軍に攻撃を加えた場合には「破滅的な間違いを犯すことになる」とした。また、イランと緊密な関係を維持してきたロシアもウクライナとの戦争に軍事力を割いており、イラン支援の余力は乏しいとみることもできる。

こうした中、原油価格の今後の見通しをめぐっては、イランがホルムズ海峡の封鎖に踏み切るかが最大の焦点となる。イラン南岸とアラビア半島の北側に挟まれたホルムズ海峡は、世界の石油海上輸送の27％が通過する原油や石油製品の重要な輸送ルートだ。ブルームバーグによると、イラン国営テレビはイラン議会がホルムズ海峡封鎖を求めたと報じたといい、現実になれば原油価格が大きく上昇する可能性がある。またイランがサウジアラビアなどの石油関連施設を攻撃するなどした場合にも、原油価格には値上がり圧力がかかりそうだ。

これに対して米国のマルコ・ルビオ国務長官は22日のCBSテレビでのインタビューで、ホルムズ海峡が封鎖されれば、イラン産原油を輸入している中国が「まず最初に怒ることになるだろう」と指摘。ロシアがイラン製のドローンを活用していることなども踏まえ、中国とロシアに対してイランとの貿易を止めるよう要請するとの考えを示した。米国が中国やロシアに圧力をかけてホルムズ海峡封鎖を阻止しようとしている形だが、米国からの攻撃で窮地が深まったイランがとる行動は予測が難しく、原油価格は今後も上振れするとの見方が優勢になることが想定される。