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投票箱が原油相場を動かす? 米中間選挙と石油・天然ガス・エネルギーの行方

原油価格の高止まりでガソリン代が家計を圧迫し、天然ガス市場も不安定な値動きが続いています。こうしたなか、11月3日に投票が行われる2026年の米中間選挙は、米国のエネルギー政策の行方を問う選挙になりつつあります。トレーダーや投資家が押さえておきたい論点を整理します。

Oil Source: Adobe

中間選挙を前に深刻化するエネルギー価格の高騰

エネルギー価格は、2026年の中間選挙で最大級の経済争点に浮上しています。米非営利団体カイザー・ファミリー財団(KFF)の世論調査によると、ガソリン価格の上昇は、医療費の負担と並んで米国の家計にとって最大の懸念となっています。

実際に、ガソリン高はすでに家計を直撃しています。2月28日に米国とイスラエルがイランとの戦闘を始めて以降、全米平均のガソリン価格は1ガロン(約3.8リットル)当たり約3ドルから4.56ドルに上がり、ワシントン州や西部の一部の州では約6ドルに達しました(5月下旬時点)。物流を支えるディーゼル燃料(軽油)も、全米平均価格が開戦前の約3.76ドルから約7割上昇し、10月上旬には1ガロン当たり6.28ドルをつけています。

米シンクタンクのブルッキングス研究所の試算では、ガソリン価格が1ガロン当たり1ドル上がると、所得が最も低い層(下位20%)の1,800万を超える世帯は、税引き後所得の5%に相当する額をガソリン代として余分に支払うことになります。こうした家計への打撃は、投票行動に表れる可能性があります。 

原油価格も急騰しています。北海ブレント原油(北海原油)のスポット価格は、年初の1月2日には1バレル=61.98ドルでした。米エネルギー情報局(EIA)は10月の短期エネルギー見通し(STEO)で、10〜12月期の平均価格を1バレル=105ドルと予想しています。前月の見通しから14ドルの上方修正です。急騰の主因は地政学リスクです。EIAは6月の時点で、ホルムズ海峡が事実上封鎖された状態が続き、中東の産油国の生産が日量1,100万バレルを超えて減ったと指摘していました。

【関連記事】ブレント原油とWTI原油の違いとは(2026年7月24日)

負担が地域によって偏っている点も、選挙戦に影響しそうです。ブルッキングス研究所によると、共和党下院議員の選挙区の有権者は、民主党議員の選挙区の有権者に比べて、車での走行距離が平均で26%長いとされます。ガソリン高は、一部の共和党現職にとって逆風となりかねません。他分野の物価上昇とも重なり、エネルギー価格は多くの選挙区で勝敗を左右する要因になる可能性があります。

石油・ガス市場が11月の選挙結果に注目する理由

トレーダーや投資家にとって、今回の中間選挙はエネルギー市場が重要な局面を迎えるなかで行われます。選挙結果次第では、石油生産会社、天然ガス供給会社、石油精製会社、再生可能エネルギー企業、電力会社の事業に直結する規制、税制、許認可の審査期間、補助金のあり方が大きく変わる可能性があります。投票日は米国時間の11月3日で、開票結果は日本時間4日の朝以降に順次明らかになる見込みです。

カナダの金融大手TDバンク・グループ傘下にある米TDコーエンのワシントン・リサーチ・グループは、中間選挙の基本シナリオとして「ねじれ議会」を想定しています。下院は民主党、上院は共和党が多数派となる構図です。この場合、議会による監視や調査は強まるものの、大きな政策変更の余地は小さいとみています。民主党が下院を握れば、関税、連邦政府の歳出、イランとの戦争、重要鉱物への投資などをめぐって、トランプ政権への調査が進む見通しです。

需要面では弱さも目立ちます。国際エネルギー機関(IEA)は8月の石油市場月報で、ホルムズ海峡の封鎖と燃料価格の高止まりが消費を圧迫し、2026年の世界の石油需要は日量160万バレル減少すると予測しました。前月の予測から、減少幅を日量51万バレル広げています。 

それでも、タンカー運賃の高騰とディーゼル燃料の需給ひっ迫が、原油価格を下支えしています。ペルシャ湾からアジアに向かう航路では、超大型タンカーの運賃が10月第1週に約40%上昇し、1日当たり140万ドルと過去最高を記録しました。EIAも、ディーゼル市場の極端なひっ迫によって製油所の原油需要が高まり、原油価格を押し上げていると指摘しています。中間選挙が米政府のエネルギー政策にどこまで影響するかは、まだ見通せません。

TDコーエンのアナリストは、2026年の中間選挙は大がかりな立法による変化よりも、議会による監視とボラティリティ(価格変動)への対応が焦点になるとみています。ねじれ議会となっても、通商、関税、エネルギー政策の主導権は、引き続きホワイトハウスが握ることになりそうです。

押さえておきたい米国のエネルギー政策の争点

11月の投票日を前に、エネルギーをめぐるいくつかの政策分野が中間選挙の争点となっています。選挙後の相場の動きを考えるうえで、次の4つのテーマを押さえておくと役立つでしょう。

石油・天然ガスの増産政策

トランプ政権は「掘って、掘って、掘りまくれ(ドリル・ベイビー・ドリル)」を掲げ、規制緩和と許認可の迅速化によって国内の石油・天然ガス生産を拡大する方針を打ち出してきました。

ただ、増産は思うように進んでいません。データ分析会社ケプラー(Kpler)は、米国の原油生産量が2025年後半に日量約1,380万バレルでピークをつけ、2026年末には日量1,360万バレル程度まで減ると予想しています。掘削活動の鈍化に加え、ノースダコタ州のバッケンなど開発が進んだ産油地域で、生産が減り始めていることが背景にあります。

積極的な増産路線で、政権が約束したエネルギー価格の引き下げは実現するのか。有権者と政策担当者の双方が、この点に注目しているとみられます。トランプ大統領は人工知能(AI)産業と化石燃料の生産を後押しし続けています。しかし共和党の候補者のなかには、電力を大量に消費するデータセンターに反対する選挙広告を打ち、距離を置こうとする動きも出ています。ブルームバーグの集計では、こうした共和党の連邦議員・州知事候補は少なくとも12人にのぼります。 

天然ガスは「移行期の燃料」になれるか

天然ガス(NY天然ガス)は米国のエネルギー論争の中心にあり、今後の役割をめぐって見方が分かれています。EIAによると、2025年の米国の事業用発電量のうち、天然ガス火力の割合は約40%を占めました。

天然ガスは、AIブームと再生可能エネルギーへの移行を支える「橋渡し役」なのか。それとも、クリーンエネルギーの普及を遅らせる存在なのか。評価はまだ定まっていないようです。カナダの金融大手RBCキャピタル・マーケッツは、2020年代を通じて、天然ガスがAIインフラの整備を支える基幹燃料になると位置づけています。

一方、世論は党派によって大きく割れています。米調査機関ピュー・リサーチ・センターによると、エネルギー政策で風力・太陽光などの再生可能エネルギーを優先すべきだと答えた共和党支持層は、2020年の65%から28%に低下しました。化石燃料を優先すべきだとの回答は71%にのぼり、6年で優先順位が逆転した形です。民主党支持層では83%が風力・太陽光の優先を支持していますが、この割合もここ数年はやや低下しています。 

石油精製業界は「適応か、衰退か」

石油精製業界は、生き残りをかけた転換を迫られています。エネルギー転換の加速を背景に、世界の精製能力は2040年にかけて圧力にさらされるとみられています。コンサルティング大手のマッキンゼー・アンド・カンパニーは2022年の分析で、世界の液体燃料(原油や石油製品など)の需要が5〜10年以内にピークを迎える可能性があると指摘しました。時期は、技術革新のペースや各国政府が掲げる脱炭素目標の水準によって変わるとしています。

バンク・オブ・アメリカのリサーチ部門によると、トランプ政権は発電について、コスト効率と供給の安定性を重視した「オール・オブ・ザ・アバブ(あらゆるエネルギー源を活用する)」戦略をとっています。中間選挙の結果は、米政府がこの路線を維持するのかを見極める手がかりになりそうです。

電力会社とインフラ投資

データセンターやAI向けの計算処理、産業の電化による電力需要の増加は、米国の電力網にかつてない負荷をかけています。ゴールドマン・サックスは2024年5月、データセンターの電力需要が2030年までに160%増えるとの予測を示しました。

データセンターが増えれば、送電網、発電設備、電力網の近代化への投資も膨らみます。業界団体の米ガス協会(AGA)は、長く不透明な許認可手続きがプロジェクトの遅れやコスト増を招いていると訴えています。米上院でも9月末に、送電線の整備を後押しする許認可手続きの改革法案が示されました。中間選挙は、インフラ許認可の迅速化や再生可能エネルギーの拡大に対して、議会がどのような姿勢をとるのかを占う機会にもなりそうです。

選挙結果別シナリオ:石油・ガス、石油精製、電力セクターへの影響

2026年の中間選挙の結果は、今後数年にわたってエネルギー市場に影響を及ぼす可能性があります。TDコーエンのワシントン・リサーチ・グループや、米モーニングスターが伝えたアナリストの分析をもとに、選挙結果ごとに主要セクターがどう変わりうるかを整理しました。

シナリオA:ねじれ議会(下院は民主党、上院は共和党が多数派)

TDコーエンが基本シナリオとする構図で、次のような展開が想定されています。 

  • 議会はトランプ政権のエネルギー政策への監視や調査を強めるが、政策を覆すような大型法案を成立させる力は限られる

  • 議会の膠着により、化石燃料・再生可能エネルギーの双方で、プロジェクトの許認可の遅れが続く可能性がある

  • 行政府の主導権はトランプ政権が維持するため、通商政策、関税、許認可、エネルギー政策などはホワイトハウス主導で進む

シナリオB:共和党が多数派を維持 

共和党が下院でも多数派を維持した場合、TDコーエンのミラー氏は、次の分野への関心が高まるとみています。

  • 石油・天然ガスの生産

  • 化石燃料による火力発電

  • ミッドストリーム(パイプライン輸送や貯蔵などを担う中流部門)のインフラ開発 

シナリオC:民主党が上下両院の多数派を獲得

反対に、民主党が上下両院の多数派を獲得した場合は、次のような展開が考えられます。

  • 代替エネルギー関連株や生活必需品株には追い風となる可能性

  • 金融株や資本財株には逆風となる可能性 

  • 風力・太陽光発電への支持(民主党支持層の85%が、連邦政府は風力・太陽光発電を促進すべきだと回答)

本記事はIGグループが作成した英文記事をもとに、IG証券が日本の読者向けに再構成したものです。

原文: Ballots to Barrels: Can Washington determine America’s oil, gas, and energy future?

日本語版編集: IG証券 

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