米国は、国内で過去最高の電力需要に直面する一方、海外からはエネルギーの供給源として頼られています。そこから勝ち組とボトルネック(制約)、そして大きな値動きが生まれています。
米国では今、2つのエネルギーの物語が同時に進んでいます。国内では人工知能(AI)が、この一世代で例のない規模の電力需要を生み出しています。海外では湾岸地域の混乱によって、米国産の原油と天然ガスが戦略的な資産になりました。トレーダーにとって、この2つの物語は思った以上に重なり合っています。
20年にわたって横ばいだった米国の電力消費が、再び増え始めています。米エネルギー情報局(EIA)は、電力需要が2025年の過去最高の4兆1,950億キロワット時から、2026年に4兆2,880億キロワット時、2027年に4兆3,560億キロワット時へと増えると予測しています。主な要因はAIと暗号資産のデータセンターです。
データセンターの数字は、さらに急です。ゴールドマン・サックスは、米国のデータセンターの電力需要が2025年の31ギガワットから2027年には66ギガワットへと、2倍以上に増えると予測しています。しかも供給が追いつきません。同社は、今後1〜2年に稼働予定の発電能力のうち、予定どおりに稼働するのは50〜60%程度にとどまると試算しています。
政治的な反発も強まっています。米ペンシルベニア大学アネンバーグ公共政策センターが今夏に行った調査では、米国の成人の61%が地元への新たなデータセンター建設に反対しており、この割合は4か月で12ポイント上昇しました。データセンターは中間選挙の争点にもなっています。
こうした需給の差が、電力の「つるはしとシャベル」(ゴールドラッシュで道具を売った商人が確実に稼いだことにちなみ、ブームに欠かせない基盤を供給する企業を指す)への殺到を説明しています。こうした企業は3つのグループに分けられます。
発電事業者:24時間電力を供給できる事業者、特に原子力(コンステレーション・エナジー(CEG)、ビストラ(VST)、タレン・エナジー(TLN))
設備メーカー:タービン、変圧器、送電網機器(GEベルノバ(GEV)、イートン(ETN))
ビハインド・ザ・メーター(需要家の敷地内で発電する方式):電力を利用者自身の敷地で作るため、送電網への接続待ちを回避できる(燃料電池、敷地内のガス発電)
政策面でも、コストを巨大テクノロジー企業に負担させる動きが出ています。大手テクノロジー企業は、法的拘束力のない自主的な「電力料金負担者保護誓約」に署名し、新たな電力を自ら建設・持ち込み・購入することと、送電網の増強費用を負担することに合意しました。
ここで、AIトレードと債券市場が交わります。7〜9月期に最もパフォーマンスが悪かったセクターは公益事業(電力会社など)でした。配当株と投資資金を奪い合う米国債の利回りが上昇し、重しとなったためです。10月6日(火)には、米10年債利回りが24年ぶりの高水準から低下したことに加え、グーグルがコンステレーション・エナジーと原子力発電の契約を結んだことで、電力株は反発しました。実際には、電力株はAIの材料と金利の両方で動くため、見方を決める前に両方を確認することが大切です。
地球の反対側では、ホルムズ海峡が依然として市場の急所です。イランによる海峡封鎖は、世界の原油供給の20%と、大量の液化天然ガス(LNG)の供給を混乱させました。4月の停戦後も、船舶の通航量は戦争前の水準を下回ったままでした。その後、流れは回復しつつあるものの、完全ではありません。10月上旬にロンドンで開かれた「エナジー・インテリジェンス・フォーラム」では、大手商品トレーダーが、中東からの供給は紛争前の約80%の水準にあるとの見方を示しました。
トレーダーは再びリスクを織り込み始めています。世界の原油価格の指標である北海ブレント原油(北海原油)は、イランがタンカーへの攻撃を強めるなか、10月7日に1バレル=101ドルを上回りました。英国海事貿易オペレーション(UKMTO)によると、10月に入ってからの攻撃などの事案は9件にのぼります。
各国の政策当局も対応していますが、新たな供給は見た目ほど多くありません。主要7か国(G7)は10月2日、軽油などの緊急備蓄の放出で合意しました。この放出は、国際エネルギー機関(IEA)が3月に合意した4億バレルの協調放出のうち、まだ届いていない約1億バレルの一部です。EIAは、ブレント原油の平均価格が10〜12月期に1バレル=105ドルとなった後、2027年には84ドルに下がると予測していますが、この予測はG7の発表前にまとめられたものです。
米国は輸出国として有利な立場にあり、LNG部門はまだ成長しています。輸出基地は2026年上半期にほぼフル稼働でしたが、新たな設備の稼働により、輸出量は2026年下半期の日量173億立方フィートから、2027年上半期には日量187億立方フィートに増える見通しです。設備がフル稼働に近い状況では、長期の供給契約の価値が高まります。
ブレント原油と米国産のWTI原油(WTI 原油)の価格差にも注目です。ブレント原油が輸送コストの上昇や湾岸からの供給減により敏感に反応した結果、価格差は9月末時点で1バレル当たり約12ドルと、5月上旬以来の大きさになっていました。
エネルギー価格の上昇はインフレにつながります。インフレが続けば、米連邦準備制度理事会(FRB)は利上げに傾きやすくなり、利回りは高止まりします。高い利回りは、公益事業株や、借り入れで資金を賄うAIプロジェクトの重しになります。米国のエネルギー面での強みは確かですが、それはエネルギー、金利、テクノロジーを一つに結びつけてもいます。どれか一つが動けば、ほかにもすぐに波及する可能性があります。
ホルムズ海峡でのタンカー攻撃などの事案と、湾岸地域の輸出データ
米国債利回り(公益事業株を最も大きく動かす要因)
巨大テクノロジー企業の電力契約と、新規プロジェクトの送電網への接続に関するニュース
※数値は2026年10月7日時点のものです。過去の実績は、将来の成果を示すものではありません。
本記事はIGグループが作成した英文記事をもとに、IG証券が日本の読者向けに再構成したものです。
原文: America's Power Play
日本語版編集: IG証券
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