| ドル円見通し:日米協調介入と米国の思惑、米雇用統計で変動拡大も |
日米が28年ぶりの「円買い」協調介入に踏み切るも、円高の圧力はじわりと後退。今晩の米雇用統計がドル高の要因となれば、ドル円は変動拡大を警戒したい。
政府・日銀は7月30日から7月31日にかけて円買い介入を実施した。31日のニューヨーク外為市場では、米財務省がユーロ売り・円買いに踏み切った。日米の協調介入は、2011年3月の東日本大震災後以来15年ぶりとなる。円買い介入では、1998年6月のアジア通貨危機時以来28年ぶりだ。
片山さつき財務相は3日、「米東部時間7月31日、米国財務省と協調して円買い介入を実施した」と述べた。2025年9月に発出した日米財務大臣共同声明に基づく実施だと説明し、「更なる協調介入を実施することも躊躇しない」と追加介入の可能性に言及した。「無秩序な動きに対しては断固たる措置をとり、実行する。いつでもその状態にある」と述べ、投機的な円売りに対抗する姿勢を鮮明にした。
米国側では、ベッセント財務長官が2日(米国時間)にXへ投稿し、31日の協調介入は無秩序な円の動きに対抗するものだと説明した。さらなる協調介入にも躊躇なく参加すると表明し、日本と歩調を合わせて円安抑止の姿勢を強く打ち出した。
なお、市場推計によれば、8月3日にも政府・日銀が1兆円規模の円買い介入を行った可能性がある。今年4月末から5月上旬にかけての介入は、財務省が公表した確定値で11兆7349億円。これに7月30日以降の推計を加えると、2026年の円買い介入は約24〜25兆円規模に達する。2024年の介入総額15兆3233億円を上回る状況は、それだけ政府・日銀が円安リスクを強く意識していることを示唆している。
2026年の為替介入:確定と推計の介入額
※実績:財務省「外国為替平衡操作の実施状況」と財務大臣談話(8月3日)
※推計:日銀当座預金の財政等要因からの市場推計および各メディアの報道
今回の協調介入で注目すべきは、米国の手法である。
米財務省はニューヨーク連銀を通じてユーロ売り・円買いを実施した。1998年6月、米国が協調介入で8億3300万ドルのドル売り・円買いに踏み切ったのとは対照的だ。
ユーロ売りを選んだ理由の一つに、米ドル安を容認するという誤ったシグナルを市場に送りたくなかった、という点が挙げられよう。
だが筆者は、より本質的な理由は米債市場にあるとみている。鍵を握るのは、日本が円買い介入の原資をどこから調達するかである。日本の外貨準備のうち、すぐに使える預金は6月末時点で1619億ドルにとどまる。4月末から5月上旬の介入局面で大きく減ったのは、預金ではなく証券、すなわち保有する米国債だった。財務省のデータによれば証券は755億ドル減少し、介入額の約760億ドルとほぼ一致する。米国債を取り崩して政府・日銀が介入資金を賄っていたというわけだ。
問題は、日本が米国債を市場で売却すれば、その分だけ米金利に上昇圧力がかかることだ。米10年債利回りは7月31日に一時4.74%と2025年1月以来、30年債利回りは同5.28%と約19年ぶり(2007年7月以来)の水準へ上昇していた。
11月の中間選挙を控え、長期や超長期の金利のさらなる上昇は経済に悪影響を及ぼす可能性があり、トランプ政権が最も避けたい事態だ。トランプ大統領は2日(米国時間)、協調介入を「我々は常に日本を支援する」と友情の証しとして説明したが、その言葉の裏には、米金利の上昇加速を食い止めたいという計算があったとみられる。
米国の長期・超長期金利のチャート
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そこで浮上しているのが、米連邦準備制度理事会(FRB)の外国・国際通貨当局向け(FIMA)レポ・ファシリティーである。保有する米国債を買い戻し条件付きでFRBに売却して米ドル資金を得る制度で、米国債が市場に放出されないため、売却に伴う金利上昇の圧力を回避できる。
FIMAのレポ上限は1カウンターパーティーあたり1日600億ドルと制約があるが、ベッセント財務長官はXの投稿で「重要なバックストップだ」と述べ、今後数カ月での拡大を推奨する考えを示した。一方、片山氏も3日の談話で、同ファシリティーの活用を予定していると明らかにした。
ベッセント氏がFIMAに言及し、それに歩調を合わせ片山氏も同制度の活用を示唆したことは、突き詰めれば「米国債市場を揺らさない」という一点で通じていると考えることができる。
ベッセント米財務長官は、日銀の政策についても言及している。為替介入は「市場にシグナルを与える」ことはできるが「最終的に流れを変えるのは政策だ」とし、「介入の後に政策が続く必要がある」と踏み込んだ。
一連の日米協調介入を受け、足元の翌日物金利スワップ(OIS)市場では9月の利上げ観測が急速に強まっている。足元では6割程度で利上げが意識される状況にある。米国の意向を強く意識した動きだ。
しかし筆者は、日銀が9月に利上げを決定し、それが円高の要因となっても、一過性で終わると想定している。理由の一つが、FRBの利上げ観測だ。直近の雇用指標が予想を下回っても、年内の利上げ観測は根強い。ゆえに日銀が利上げに踏み切っても、日米の政策金利差は依然として開いたままとなろう。
日銀 9月会合の利上げ見通し
日米の実質金利にも注目したい。直近の米国10年実質金利は2.4%前後で推移しており、日本のそれを大きく上回っている。特に政策金利(無担保コール翌日物)を名目金利とすれば、日本の実質金利は依然としてマイナス圏にある。
政策金利だけでなく、実質金利の面でも米国が優位にあり、これらの金利差は、対米ドルで円安が続く土台になり得る。
日米実質金利の動向:週次 2019年以降
目先の変動要因は米経済指標となろう。本日の日本時間21時30分に7月の雇用統計が発表される。市場予想を上回れば米金利の上昇とドル高の要因になり得る。ドル円(USD/JPY)はテクニカル分析のセクションでまとめたレジスタンス水準を視野に上昇することが予想される。しかし、ドル円の反発が加速すれば、それだけ追加介入への警戒が高まり、突発的な円高に見舞われるリスクも増す。
一方、米雇用統計が市場の予想を大きく下回る場合は、早期利上げ観測の後退による米ドル安が予想される。為替介入が警戒される中での米ドル安は、ドル円の下落が拡大する要因となろう。米雇用統計後のドル円は、変動拡大を警戒したい。
米雇用統計 各項目の動向
日米の協調介入は外為市場に衝撃を与えた。しかし、対米ドルでの円高圧力はじわりと後退している。6日の市場でドル円(USD/JPY)は、レジスタンスラインとして意識されていた158.00円を突破した。同時に200日線を突破したことになり、テクニカルの面で円安圧力の根強さが確認された。
今晩の7月米雇用統計がドル高の要因となれば、1時間足チャートの61.8%戻しの158.70円台、そして半値戻しと76.4%戻しが重なる159.50円台の攻防に注目したい。日足の一目均衡表・雲の下限が159.00円レベルで推移している。159.00円の突破は159.50円をトライするサインとなろう。
現在のドル円は、ボラティリティが拡大しやすい局面にある。米雇用統計の内容次第では、159.50円レベルの突破と節目の160.00円を視野に上振れする展開も想定しておきたい。
注目水準:レジスタンス
・160.00円:心理的節目、89日線(160.04円)
・159.50円:半値戻し(159.48円)、76.4%戻し(159.54円)
・159.00円:一目均衡表・雲の下限
・158.72円:61.8%戻し
一方、米雇用統計がドル安の要因となれば、以下にまとめたチャート水準の攻防に注目したい。
今年5月上旬の為替介入と直近の為替介入の局面で、いずれも相場をサポートした155.00円レベルを目先の下限と想定したい。158.00円(200日線)、157.00円、156.00円と1円刻みの節目水準での攻防を見極めたい。さえない雇用統計を受けて付けた安値は、来週以降も重要なサポート水準になり得る。
なお、154.90円レベルはフィボナッチ・リトレースメント76.4%戻しにあたる(日足)。テクニカル面でも、155.00円レベルは目先の下限として意識されやすい状況にある。
注目水準:サポート
・158.00円:200日線(158.04円)
・157.00円:節目水準
・156.00円:節目水準
・155.23円:8/3安値
・155.03円:5/6安値
・155.00円:重要サポートライン
・154.90円:76.4%戻し
ドル円日足チャート:2026年1月以降
ドル円1時間足チャート:7月29日以降
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