ポンド急落、一時195円台 財務相退任観測 歳出削減法案が後退
ポンド円相場は数時間で2円超のポンド安が進行。歳出削減法案の後退が財務相の退任につながるとの観測が要因だ。影響が長引く可能性もある。

ポンド円相場に下落圧力がかかっている。ポンド円相場は日本時間2日深夜から3日午前にかけては、1ポンド=195円台で推移。2日には数時間の間に2円超のポンド安が進む場面もあった。イギリスのキア・スターマー政権が打ち出した社会保障改革関連の歳出削減法案が後退を余儀なくされ、レイチェル・リーブス財務相が交代するとの観測が広がったためだ。英国は公的純債務残高が1960年代以来の高水準となっており、債務拡大への不安がポンド売りにつながりやすい。2022年9月に当時のリズ・トラス首相が発表した大規模減税計画がポンド急落を招いた「トラス・ショック」の前例もあり、ポンド円相場でのポンド安圧力が長引く可能性もある。
ポンド円相場は一時195円台 数時間で2円超のポンド安進行
ポンド円相場(GBP/JPY)は日本時間2日午後11時台に1ポンド=195.37円をつけた。午後8時台までは197円台半ばで推移していただけに、数時間の間に2円超のポンド安が進んだことになる。ポンド円相場は6月27日には198.81円をつけ、2024年12月30日(198.96円)以来、6か月ぶりのポンド高水準となっていたが、様相が一変したといえる。

社会保障関連の歳出削減法案は大幅修正 リーブス財務相の辞任観測拡大
2日のポンド安の背景には、スターマー政権の歳出削減法案が後退を余儀なくされたことがある。スターマー政権は社会保障負担を抑えるため、身体面や精神面での健康問題を抱えた人々を支援する給付金について支給対象を絞り込むことなどを盛り込んだ歳出削減法案の成立を目指してきた。しかし法案には与党労働党内からも反発が相次ぎ、1日の下院通過までに多くの修正を迫られた。
社会保障負担の抑制は財政を所管するリーブス氏が3月に発表した2025年度(2025年4月-2026年3月)の春季予算に盛り込まれていた内容。英BBCによると、今回の修正で、歳出削減効果は当初見込まれていた10年後時点で年間55億ポンドから、25億ポンドまで縮小したという。こうした中、スターマー氏は2日の議会での質疑の中で、リーブス氏が今後も続騰するかどうかを問われ、回答しなかった。この際、スターマー氏の後方に座っていたリーブス氏が涙を流す様子がみられ、財政規律に厳格だとされるリーブス氏が財務相を退くとの観測につながった。
ポンドはドルに対して0.80%安 財政への懸念で大きく売り込まれる
2日のFX市場ではポンドはドルに対して大きく下落。ブルームバーグによると、ポンドの対ドル相場(GBP/USD)の2日のニューヨーク市場での終値は前日比0.80%のポンド安に振れた。ユーロの対ドル相場(EUR/USD)の0.06%のユーロ安や、豪ドルの対ドル相場(AUD/USD)の0.02%の豪ドル高、円の対ドル相場の0.17%の円安といった値動きと比べて、ポンドが大きく売り込まれたこととなる。

英国の債務は1960年代以来の高水準 支援給付金の規模は急拡大の見通し
英国の財政問題にFX市場が過敏に反応するのは英国の公的債務の高止まりが続いているからだ。英統計局のデータによると、英国の公的純債務残高は2025年5月段階で2兆6877億ポンドで、GDP比では90.4%となっている。中央銀行にあたるイングランド銀行(BOE)を加えたベースでは96.4%となり、「欧州の病人」と呼ばれることもあった1960年代以来の高水準になっている。

また、歳出削減法案が照準をあてた健康面での問題を抱えた人々への給付金はハイペースで膨らむ見通しが示されている。英国予算責任局(OBR)が2024年10月に公表した試算では、16歳から64歳までの勤労世代に対して支給されている給付金は2023年度は485億ポンドだったが、2029年度には757億ポンドまで増えると見込まれている。BBCは受給者数増加の理由として、精神面での不調を訴える人が増えていることを挙げている。
ポンド相場に残るトラス・ショックの記憶 ポンドへの下落圧力継続も
FX市場では英国の財政状態への懸念がポンド急落を招いたトラス・ショックの記憶が残っている。2022年9月に首相に就任したばかりのトラス氏は大規模減税計画を打ち出したが、財政悪化につながるとの懸念が拡大。ブルームバーグによると、計画が発表された9月23日、ポンドの対ドル相場は前日比3.57%安。週明け26日も1.57%安となった。トラス氏は10月25日には首相退任に追い込まれている。
スターマー氏は2日夜にBBCでのインタビューで、リーブス氏について「素晴らしい仕事をしている」として、今後も長く財務相を務めると明言。混乱の火消しにかかっている。しかし歳出削減法案の後退が英国の財務の健全性への懸念を強めたことに変わりはなく、ポンドに対する下落圧力が続くことも考えられそうだ。
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