円高の流れ復活か 一時144円台 米国経済の最悪シナリオに不安
ドル円相場は16日に144.97円まで円高が進行。米中関税引き下げ合意後の円安の流れが失われた。米国経済をめぐる懸念が再燃しつつあるようだ。

ドル円相場で円高の流れが復活してきた。日本時間16日午前の取引では一時、1ドル=144円台をつけ、アメリカと中国の関税大幅引き下げ合意が発表された12日につけた148円台後半から円高方向に振れている。米国で15日に発表された経済指標が米国の消費や企業業績への不安を感じさせたことで、長期金利(10年物国債利回り)が低下したことが要因だ。一方、米連邦準備制度理事会(FRB)のジェローム・パウエル議長は様子見姿勢を堅持しており、円高圧力が急上昇しているわけではない。また16日に発表された2025年1-3月期の日本の実質成長率は1年ぶりのマイナスで、円安要因といえる。とはいえ、米国で経済悪化と物価上昇が同時に進む最悪シナリオの恐れが消えない中、ドル円相場の今後の見通しをめぐっては、円高圧力がくすぶり続けそうだ。
ドル円相場は144.97円まで円高が進行 米中合意の円安の勢い消失
ドル円相場(USD/JPY)は日本時間16日午前10時台に1ドル=144.97円をつけた。ブルームバーグによると、5月9日につけた144.83円以来5営業日ぶりの円高水準だ。ドル円相場は12日には148.65円まで円安が進んでいたが、4日ほどで3.68円の円高が進んだことになる。米中が関税の大幅引き下げで合意したことで生じた12日の円安の勢いは失われたといえそうだ。

小売売上高は冴えない結果 卸売物価指数は企業業績への悪材料か
円高進行の背景には米国経済の見通し不安の高まりがある。米国で15日に発表された4月小売売上高は前月比0.1%増。トランプ氏の高関税への警戒が駆け込み需要につながった3月の1.7%増の反動が出る形となった。また、自動車と自動車部品を除いたベースでは前月比0.1%増となり、ブルームバーグがまとめた市場予想の0.3%を下回っている。

また同じく15日に発表された4月卸売物価指数(PPI)の伸び率は前年同月比2.4%で、市場予想の2.5%を下回った。企業が高関税を価格に転嫁することをためらっている状況といえそうだ。物価上昇の過熱感が出ていないことは米国経済にとって朗報とはいえ、今後の企業業績や雇用への悪影響を示唆する結果にもみえる。

アメリカの長期金利は4.4%台へと低下 日米金利差は縮小の動き
こうした中、金融市場では米国の長期金利が低下。ブルームバーグによると、15日のニューヨーク債券市場での終値は4.433%で、前日から0.105%ポイント低下した。この結果、日米の長期金利差にも縮小の動きが見えている。15日終値段階での日米金利差は2.964%ポイントで、4月30日(2.853%ポイント)以来の低さ。16日の取引ではさらに縮小が進んでいる。CMEグループによると、FRBの年内利下げ回数が2回になることについて投資家の動向から算出される確率は日本時間16日正午段階で78%程度となっている。

アメリカの雇用は堅調に推移 日本の1-3月期のマイナス成長は円安要因
一方、15日発表の経済指標ではFRBが注視する労働市場での異変は表面化しなかった。15日に発表された4-10日週の失業保険申請件数は前週と同じ22.9万件。ブルームバーグがまとめた市場予想の22.8万件とほぼ同水準だった。パウエル氏は15日の講演では直近の経済状況について言及しておらず、7日の連邦公開市場委員会(FOMC)後の記者会見時に示した様子見姿勢を続けているもようだ。

また、ドル円相場の今後の見通しをめぐっては日本経済の弱さという円安要因もある。16日に発表された2025年1-3月期GDP速報値は、実質成長率が前期比年率マイナス0.7%となり、前四半期(2024年10-12月期)のプラス2.4%から大きく落ち込んだ。輸入が12.1%増となったことが要因だが、個人消費も0.2%増という小ささで悪材料となっており、物価高や世界経済の不透明感が強まる中、経済活動が委縮しているおそれがある。

トランプ氏の高関税は米国経済を揺らす 物価上昇も再燃の最悪シナリオのおそれ
ただ、こうした円安要因があるとはいえ、トランプ氏の高関税政策がすでに米国経済を揺るがしている事実は重い。4月30日に発表された米国の1-3月期GDP速報値は前期比年率換算でマイナス0.3%。輸入急増が主因とはいえ、個人消費も1.8%増に減速した。また、落ち着きが続く物価動向も今後は上昇が加速するおそれがある。ブルームバーグによると、小売大手ウォルマートのジョン・レイニーCFOはインタビューで、高関税が価格に及ぼす影響について「5月には目にみえるようになるだろう」と述べた。米国で経済活動の後退と物価上昇の加速が同時に起こる最悪のシナリオの可能性はドル安要因といえ、ドル円相場を円高方向に動かす圧力として働きそうだ。
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