世界のリチウム市場は、2023年に暴落しました。業界再編をリードするリチウム生産関連銘柄5選と、リチウム需要と価格の見通しを紹介します。いずれも、将来の見通しなどを総合的に考慮して選定しています。
リチウムイオン電池関連株とは、スマートフォンやPCといった身近な電子機器から、近年急速に普及している電気自動車(EV)まで、幅広い分野で使われるリチウムイオン電池のサプライチェーン(供給網)に関わる企業の株式を指します。
具体的には、原料となるリチウムを採掘する鉱山企業、それを電池材料に加工する化学・素材メーカー、そして最終的なバッテリーを製造する電池メーカーなどが含まれます。世界的な「脱炭素」の流れを受けてEVシフトが加速する中、これらの銘柄はエネルギー転換を支える重要な投資テーマとして注目されています。
リチウム市場の現在地と将来の見通しについて、需給バランス、地域別の動向と将来のリスク要因に分けて解説します。
リチウム市場は現在、過去数年の過熱相場からの調整局面にあります。長期的には脱炭素社会に向けたEVシフトにより需要が倍増するシナリオは崩れていないものの、短期から中期的には供給過剰感と価格のボラティリティ(変動幅)が高い状態が続くと予想されます。
市場が調整局面にある主な理由は、EV需要の成長ペースが一時的に鈍化した一方で、価格高騰期に計画された鉱山開発が一斉に稼働し、供給が急増したことです。「脱炭素」という世界的な潮流はもはや後戻りすることはありませんが、インフレや金利上昇による消費者の買い控え、および各国の補助金政策の変更などが、足元のEV販売スピードにブレーキをかけています。
地域別に見ると、それぞれ異なる要因が市場に影響を与えています。
まず、世界トップクラスの需要を誇る中国は、国内のEV価格競争激化によりバッテリー在庫の調整が続いています。経済減速懸念もあり、かつてのような爆発的な原料買い付けは落ち着いていている状況です。
次に、米国や欧州では、米国のインフレ抑制法(IRA)や欧州の重要原材料法(CRMA)により、中国依存からの脱却が進められています。長期的には、北米やオーストラリア、チリなど、西側諸国に拠点を持つ企業の重要性が増していくでしょう。
最後に、主要生産国であるオーストラリアは、足元の価格下落を受け、高コストな鉱山の一部で減産や閉鎖が起きています。この供給の絞り込みが、今後の価格底入れを後押しする可能性がありそうです。
また、将来的なリスク要因として無視できないのが、バッテリー技術の進化です。現在、リチウムを使用しない「ナトリウムイオン電池」などの安価な代替技術の開発が進んでいます。
これらはリチウムイオン電池よりも安価であるため、特に低価格帯EV向けの市場シェアを奪う兆しがあります。これがリチウム需要の天井を低くし、価格の上値を抑える要因となるかもしれません。
かつてのように「関連銘柄であれば何でも上がる」という局面は終わりを迎え、今後は価格競争に耐えうる低コストでの生産能力や、米国の優遇策を享受しやすい地政学的な強みを持つ企業が、より厳しく選別されていく展開が予想されます。
ここでは、2025年に注目のリチウムイオン電池関連の銘柄5選をご紹介します。株価とその推移は12月6日時点のものを引用しています。また、過去の値動きは、将来の株価動向を示すものではありません。
パナソニック ホールディングスは、車載用電池事業、特にリチウムイオン電池分野において世界的な競争力を有しており、中長期的な成長が期待される主要銘柄です。
2025年8月には、米国カンザス州の新工場でEV用円筒形リチウムイオン電池の量産開始を行うことが発表され、将来的には北米での年間生産能力を約73GWhまで引き上げるとしました。
パナソニック ホールディングスのEV電池事業は赤字が続いているものの、国内では2020年代後半からスバルやマツダに電池を供給する予定であり、国内外の工場の稼働率を上げ、早期の黒字転換を目指しています。
2026年3月期第2四半期(2025年4月1日~2025年9月30日)の決算では、売上高が約3兆8,205億円(前年同期比-10.1%)、営業利益は約1,650億円(同-23.6%)、親会社の所有者に帰属する中間純利益が約1,424億円(同-23.6%)と、大幅な減収・減益となりました。
これは、期待されていたエナジー事業(車載電池)が想定以上に悪化したことが響いたためです。
2026年3月期の通期(2025年4月1日~2026年3月31日)は下方修正され、売上高が7兆7,000億円(前期比-9.0%)、営業利益は3,200億円(同-25%)、親会社の所有者に帰属する当期純利益は2,600億円(同-29.0%)を見込んでいます。
現在の株価は1,851円、予想PERは約17倍、PBRは約0.9倍と、資産面から見ると割安感があります。
現在は短期的な需要調整の波にさらされているパナソニック ホールディングスですが、中長期的には北米での現地生産能力と技術的優位性が競争力の源泉となることに変わりはなく、同社は次なる成長サイクルへの移行期に位置づけられます。
豊田通商は、リチウム資源の採掘からバッテリーのリサイクルまでをワンストップで手掛ける独自のバリューチェーンを構築しており、リチウムイオン電池、そしてEV普及の要となる重要な銘柄です。
2025年9月には、韓国のLG-HY BCM社への出資を行い、リチウムイオン電池の性能を左右する「正極活物質」の安定調達に向けた供給網強化に動きました。これにより、素材の調達から製造・供給に至るまでの体制がいっそう強固なものとなり、競争力の源泉となっています。
2026年3月期第2四半期(2025年4月1日~2025年9月30日)の決算では、収益が約5兆4,144億円(前年同期比+6.9%)、営業活動に係る利益は約2,611億円(同+5.3%)、親会社の所有者に帰属する中間利益は約1,869億円(同+3.0%)と、増収・増益を達成しました。
自動車販売の増加及び自動車生産関連の取り扱い増加が収益を押し上げ、セグメント別ではアフリカが好調、サプライチェーンも豪亜を中心とした自動車部品の取り扱い増加などによって伸びを見せました。
2026年3月期通期では、親会社の所有者に帰属する当期利益が3,600億円(前年比-0.7%)と予想されています。足元の為替レートが業績予想時に見込んでいた水準よりも円安方向で推移しており、実績も当初の想定よりも堅調なため、従来予想の3,400億円から上方修正されています。
現在の株価は4,958円、予想PERは約15倍、PBRは約1.8倍と、資産面から見ると割高感のある水準です。これは、豊田通商のバッテリー事業が持つ将来性が、株式市場から高く評価されていることが一因でしょう。
豊田通商は、EVシフトに伴うバッテリー需要を全方位で取り込む体制を整えており、中長期的な成長ストーリーが極めて明確な企業です。
旭化成は、リチウムイオン電池の主要な材料であるセパレータ市場で世界的なシェアを持っており、EV市場の拡大とともに成長が期待される銘柄です。
2025年12月には、主要パートナーであるホンダがEV生産・供給体制の構築を2年延期すると報じられる中、旭化成は「カナダ・オンタリオ州の新工場の稼働予定に変更はない」としました。
この工場は約1,800億円を投じた巨大プロジェクトであり、2027年の商業生産開始に向けて建設を進めていることは、同社の電池事業に対する長期的なコミットメントの強さを裏付けています。
2026年3月期第2四半期(2025年4月1日~2025年9月30日)の決算では、売上高が約1兆4,864億円(前年同期比-0.3%)、営業利益は約1,075億円(同-1.3%)と微減した一方、親会社株主に帰属する中間純利益は約663億円(同+10.0%)と、増益を達成しました。特に、投資有価証券売却益や関係会社株式売却益などの特別利益の増加が、純利益の拡大に寄与しました。
2026年3月期通期では、売上高が3兆800億円(前期比+1.4%)、営業利益は2,210億円(同+4.3%)、親会社株主に帰属する当期純利益は1,400億円(同+3.7%)と、増収・増益が見込まれています。
現在の株価は1,331.5円、予想PERは約13倍、PBRは約1倍で、利益面から見るとやや割安感があります。約3.0%という高い配当利回りも魅力です。
このように、旭化成は短期的なEV市場の減速懸念に動じることなく、北米での生産基盤確立という長期戦略を堅持しており、やや割安感のある株価と将来の成長期待が並存する魅力的な投資対象となっています。
TDKは、スマートフォンやタブレット向けのリチウムイオン電池で世界トップのシェアを誇る「Amperex Technology Limited(ATL)」を子会社に持ち、AI搭載スマートフォンの普及に伴うバッテリーの大容量化トレンドから最も恩恵を受ける銘柄の一つとして注目されています。
2025年10月に開催されたイベントでは、AIエコシステムへの貢献を全面に打ち出し、消費電力が激しいオンデバイスAIに対応した高容量バッテリー技術が市場の関心を集めました。
2026年3月期第2四半期(2025年4月1日~2025年9月30日)の決算では、売上高が約1兆1,834億円(前年同期比+8.6%)、営業利益は約1,476億円(同+10.7%)、親会社の所有者に帰属する中間利益は約1,114億円(同+5.4%)と、増収・増益を達成しました。
ICT(情報通信技術)市場向け製品の堅調な需要や、合理化・構造改革効果が、これに主に寄与しました。特に、エナジー応用製品セグメントが約6,481億円(前年同期比+13.3%)と大きく伸長し、全体を牽引しています。
2026年3月期通期は売上高が2兆3,700億円(前年同期比+7.5%)、営業利益は2,450億円(同+9.3%)、親会社の所有者に帰属する当期利益は従来の1350億~1700億円から1,800億円(同+7.7%)へと上方修正され、年間配当も30円から32円への増額が発表されました。
現在の株価は2,433円、予想PERは約26倍、PBRは約2.4倍と、利益面と資産面ともにやや割高感があります。とはいえ、リチウムイオン電池関連の主力株として、さらなる株価上昇を期待する声は根強くあります。
TDKは高容量バッテリーの製造技術や、全固体電池による新規市場開拓などが市場で好感されており、2026年に向けた成長期待が一段と高まっています。
Albemarle(アルベマール)は世界最大級のリチウム生産能力を有し、EV向けバッテリー原材料の供給において圧倒的な存在感を誇る米国の企業です。
特に注目すべきは、財務体質の健全化に向けた徹底した構造改革です。同社は2025年の設備投資額を2024年の約17億ドルから65%削減し、約6億ドル程度に抑えるという大胆な計画を打ち出しています。
キャッシュフローの確保を優先したこの施策は、リチウム市況が回復するまでの持久力を高める賢明な戦略と評価できます。
2025年7~9月期の決算では、売上高が約13億ドル(前年同月比-3.5%)と減収になった一方、純利益はー2億ドル(前年同月は-11億ドル)と赤字が大幅に縮小しました。
現在の株価は125.19ドル、実績PERは赤字のため算出不能で、PBRは約1.5倍と、資産面から見ると割高感があります。これは、生産調整による需給バランスの改善と、将来的なリチウム価格の反転を見据えた長期的な投資妙味が市場で評価されている証拠でしょう。
このように、Albemarleは市況悪化に対して守りの財務戦略を徹底する一方で、世界的な供給網を維持しており、リチウム市況の回復を背景に有力な受益銘柄の一つと見られています。
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