化石燃料の消費から脱却するために、水素が世界的に果たす役割はますます大きくなっています。ここでは、注目の水素ビジネス関連銘柄5選をご紹介します。いずれも、期待性や成長性などを総合的に考慮して選定しています。
水素ビジネス関連株とは、次世代のクリーンエネルギーである水素のサプライチェーン(供給網)構築に関わる企業の株式を指します。水素ビジネス関連株は単なるエネルギー関連株の一角ではなく、世界各国が掲げる「脱炭素社会(カーボンニュートラル)」の実現に向け、巨額の国家予算や民間投資が投じられている「国策銘柄」として、株式市場で長期的に注目を集めている投資テーマの一つです。
なぜ今、これほどまでに水素ビジネスが重要視されているのでしょうか。その最大の理由は、「再生可能エネルギーの欠点を補い、産業の脱炭素化を完遂できる手段」だからです。
例えば、同じクリーンエネルギーである太陽光発電や風力発電は天候に左右されやすく、発電量が不安定になりがちです。しかし、余った電気で水素を作っておけば、エネルギーを大量に貯蔵し、必要な場所へ輸送することができます。
また、製鉄所や化学プラント、大型トラックや船舶など、電気(バッテリー)だけで動かすのが難しい分野でも、水素なら化石燃料の代替として高出力なエネルギーを供給することが可能です。
技術的なハードルやコストの課題は残るものの、政府の支援を背景に市場規模は今後数十年にわたり拡大し続けると予測されており、投資家にとって中長期でポートフォリオに組み入れる価値のあるセクターです。
世界各国が脱炭素へと舵を切る中、水素は単なる代替燃料ではなく、産業構造を根底から変えるエネルギーとして評価されています。米国や欧州、日本による巨額の公的支援に加え、民間企業の連合体である「水素協議会」が主導し、市場規模は今後急速に拡大すると予測されています。
水素への注目度が急上昇している背景の一つに、電気自動車(EV)やバッテリーだけでは解決できない排出削減が困難な領域の存在があります。
例えば、乗用車はEV化が進んでいますが、24時間稼働する物流トラックや長距離バスにとって、バッテリーの「重さ」と「充電時間の長さ」は致命的な課題です。しかし、道路輸送からのCO2排出の約3割を占めるこれら大型商用車にとって、「軽量で、数分で充填でき、長距離を走れる」水素燃料電池(FCV)は、現実的なゼロエミッション手段となり得ます。
また、電化が難しい製鉄や化学プラントの熱源としても、水素は不可欠な存在です。そのため、水素には自動車や製鉄、化学プラントといった幅広い産業から、熱い視線が注がれているのです。
投資家が水素ビジネスで注目すべき点は、水素の製造方法による「格付け」です。水素は透明な気体ですが、市場ではその環境負荷に応じて色で分類され、よりクリーンな水素ほど高いプレミアム(付加価値)がつきます。
株式市場では、このグリーン水素の製造コストを下げる技術を持つ企業や、大量輸送を可能にするインフラ企業が、次の成長株として選別され始めています。
ここでは、注目の水素ビジネス関連銘柄5選をご紹介します。株価とその推移は12月2日時点のものを引用しています。また、過去の値動きは、将来の株価動向を示すものではありません。
川崎重工業は、水素社会の実現に向けた「つくる・はこぶ・ためる・つかう」というサプライチェーン全体を支える基盤として、世界水準の技術力を備えています。
2025年9月には、水素を30%まで混焼可能な大型ガスエンジンの販売を世界で初めて開始し、脱炭素社会に向けた製品の市場投入を本格化させています。また、同年10月にはヤンマーパワーテクノロジーなどとの共同で、こちらも世界初となる舶用水素エンジンの陸上運転試験に成功したと発表するなど、海運分野での水素利用実用化に向けても着実な進展を見せています。
2026年3月期第2四半期(2025年4月1日~2025年9月30日)の決算では、売上収益が約9,963億円(前年同期比+12.7%)に増加した一方、事業利益は約357億円(同-25.2%)と減収となりました。ただし、親会社の所有者に帰属する中間利益は約221億円(同+61.6%)と大幅に改善しています。
売上収益は過去最高を記録しましたが、事業利益は円高や関税コストの上昇などによって減少となりました。しかし、中間利益は期末の円安進行に伴う為替差益計上などにより、着実に持ち直しています(事業利益と中間利益は計算に使うレート(時点)が異なる)。
2026年3月期通期では、売上収益が2兆3,400億円(前期比+9.9%)、事業利益が1,450億円(同+1.3%)と、増収・増益を見込んでいます。一方で、親会社の所有者に帰属する当期利益は820億円(同-6.8%)と予想されています。
現在の株価は9,856円、予想PERは約20倍、PBRは約2.2倍で、割高感は否めません。将来的な水素ビジネスの拡大や航空宇宙分野の成長に対する投資家の期待値の高さが、株価を支えている要因と見られます。
川崎重工業は、短期的にはコスト増などの課題に直面しているものの、中長期的には水素エネルギー分野のトップランナーとして大きな成長ポテンシャルを秘めています。
三菱重工業は、脱炭素社会の実現に向けた「エナジートランジション」を成長戦略の中核に据え、特に水素ビジネスのバリューチェーン(企業が製品やサービスを顧客に提供するまでの一連の事業活動)構築において世界をリードしている企業です。
2025年3月には、水素100%燃料を用いたエンジンの安定運転を達成したことに続き、同年7月には水素混焼対応のガスコージェネレーションシステム「SGP M450」を市場展開するなど、脱炭素ソリューションのラインナップを急速に拡充しています。
2026年3月期第2四半期(2025年4月1日~2025年9月30日)の決算では、売上収益が約2兆1,137億円(前年同期比+7.3%)、事業利益が約1,716億円(同+2.1%)、親会社の所有者に帰属する中間利益は約1,149億円(同+7.3%)と、増収・増益を達成しました。
2026年3月期通期では、売上収益が上方修正され4兆8,000億円(前期比+10.1%)、事業利益は3,900億円(同+9.9%)と、増収・増益が予想されています。一方、親会社の所有者に帰属する当期利益は2,300億円(同-6.3%)とマイナスになる見込みです。しかしながら、エナジーセクターの売上収益は高水準を維持しており、将来の水素バリューチェーン構築に向けた基礎体力は盤石だと考えられます。
現在の株価は3,861円、予想PERは約56倍、PBRは約5.2倍で、かなり割高感のある水準です。これは三菱重工業の成長が、市場から大きく期待されていることを意味します。
三菱重工業は短期的な収益変動をこなしつつ、現実的な解としての水素発電の社会実装を着実に進めており、中長期的な成長ストーリーに揺るぎはないと言えるでしょう。
豊田通商は、風力発電で国内最大手のユーラスエナジーホールディングスを完全子会社に持つ強みを活かし、グリーン水素のサプライチェーン構築において独自の立ち位置を築いています。
2025年9月には、ユーラスエナジーや岩谷産業とともに、愛知製鋼の知多工場で再エネ由来の水素を製造・供給する地産地消型モデルの構築に取り組むことを発表しました。このプロジェクトは、2030年頃の運用開始を目指し、風力発電由来の電気を用いて年間約1,600トンの低炭素水素を供給する計画であり、産業界の脱炭素化を実用段階へ進める重要な取り組みとして注目されています。
2026年3月期第2四半期(2025年4月1日~2025年9月30日)の決算では、収益が約5兆4,144億円(前年同期比+6.9%)、営業活動に係る利益は約2,611億円(同+5.3%)、親会社の所有者に帰属する中間利益は約1,869億円(同+3.0%)と、増収・増益を達成しました。自動車販売の伸びと自動車生産関連の取り扱いが拡大し、収益を押し上げました。セグメント別ではアフリカが好調で、サプライチェーンも豪亜を中心とした自動車部品の取り扱い増加などにより伸長しました。
2026年3月期通期では、親会社の所有者に帰属する当期利益が3,600億円(前年比-0.7%)と予想されています。足元の為替レートが業績予想時に見込んでいた水準よりも円安方向で推移しており、実績も当初の想定よりも堅調なため、従来予想の3,400億円から上方修正されています。
現在の株価は4,893円、予想PERは約14倍、PBRは約1.8倍と、資産面から見ると割高感のある水準です。これは従来のトレードビジネスを超えた再エネ・水素分野での成長が、市場から大きく期待されている証拠でしょう。
豊田通商はトヨタグループの水素戦略の中核を担うとともに、独自の再エネ資産を活用したグリーン水素のリーディングカンパニーとして、今後も持続的な成長が見込まれます。
岩谷産業は水素ビジネスにおける国内のパイオニアであり、製造から輸送、貯蔵、供給に至る全行程を自社で手がける体制を強みに、脱炭素社会のインフラ整備を主導しています。
2025年11月には、川崎重工などと出資する「日本水素エネルギー(JSE)」が、川崎市で世界最大級となる液化水素受入基地(ターミナル)の建設に着手しました。2030年の本格的な商用サプライチェーン構築に向け、海外から大量の水素を受け入れる玄関口の整備がいよいよ現実のものとなり始めています。
2026年3月期第2四半期(2025年4月1日~2025年9月30日)の決算では、売上高が約4,091億円(前年同期比+2.3%)に増加した一方、営業利益は約108億円(同-33.3%)と減収となりました。しかし、親会社株主に帰属する中間純利益は約203億円(同+51.1%)と大幅な増益を達成しています。減益の主な要因はLPガスやヘリウムの市況による影響ですが、固定資産売却益の計上により、純利益は力強い伸びを示しました。
2026年3月期通期では、売上高が9,364億円(前期比+6.0%)、営業利益は491億円(同+6.2%)、親会社株主に帰属する当期純利益は488億円(同+20.6%)を見込んでいます。
現在の株価は1,654.5円、予想PERは約8倍、PBRは約1.0倍と、利益面から見ると割安感が際立っています。配当利回りも約2.8%と高めです。
岩谷産業は水素関連の代表的な銘柄でありながら、指標面では依然として過熱感が見られず、堅実な業績と将来の成長期待の両面から中長期的な投資妙味がある銘柄だと言えそうです。
産業ガスで世界最大手のLindeは、安定した収益基盤と高度な技術力を背景に、グリーン水素の製造から供給に至るインフラ構築を着実に実行しています。
2025年9月には、米国ニューヨーク州ナイアガラフォールズで建設を進めていた35メガワットのPEM水電解装置によるグリーン水素製造プラントが商業運転を開始することが発表され、稼働が本格化しています。このプラントは、水力発電由来の再生可能エネルギーを活用してグリーン水素を製造し、Lindeが持つ既存のパイプラインや液化設備を通じて産業向けに供給するもので、米国内における同社のグリーン液化水素生産能力を倍増させるための重要な拠点です。
2025年7~9月期の決算では、売上高が86億ドル(前年同月比+3.1%)、純利益は19億ドル(前年同月比+24.5%)と、大幅な増益を達成しました。脱炭素化ニーズの高まりを背景としたプロジェクト受注残高が高水準を維持しており、将来的な収益もしばらくは大きく落ち込むようなことはなさそうです。
現在の株価は407.14ドル、実績PERは約30倍、PBRは約5.1倍と、割高に映ります。これはLindeの安定性と成長性の両立が、市場に好感されているためでしょう。
Lindeは水素ビジネスを単なる実証実験ではなく、キャッシュフローを生むインフラ事業として確立しており、ポートフォリオの核となる銘柄として期待されます。
本レポートはお客様への情報提供を目的としてのみ作成されたもので、当社の提供する金融商品・サービスその他の取引の勧誘を目的とした ものではありません。本レポートに掲載された内容は当社の見解や予測を示すものでは無く、当社はその正確性、安全性を保証するものではありません。また、掲載された価格、 数値、予測等の内容は予告なしに変更されることがあります。投資商品の選択、その他投資判断の最終決定は、お客様ご自身の判断でなさるようお願いいたしま す。本レポートの記載内容を原因とするお客様の直接あるいは間接的損失および損害については、当社は一切の責任を負うものではありません。 無断で複製、配布等の著作権法上の禁止行為に当たるご使用はご遠慮ください。