上場企業が環境、社会、ガバナンス(ESG)問題に取り組む必要性が高まっています。この記事では、ESG投資が株式テーマの銘柄5選をご紹介します。いずれも、安定性や成長性などを総合的に考慮して選定しています。
ESG関連銘柄とは、環境(Environment)、社会(Social)、企業統治(Governance)に配慮した経営を行っている企業の株式のことです。近年、持続可能な社会の実現に向けた投資として注目を集めています。
なぜESG関連銘柄が重要なのでしょうか。それは、世界が抱える課題が深刻になるにつれて、企業の長期的な成長には環境問題への対応や社会課題の解決、健全な経営体制が不可欠だと認識されるようになったからです。
世界のESG市場は飛躍的な拡大が期待されており、2024年の市場規模は約30兆ドルと見積もられていますが、2034年までに約167兆ドルにまで劇的に成長するとの見通しもあります。
具体的なESG関連銘柄としては、再生可能エネルギーを事業展開する企業、多様性を尊重した人事制度を導入している企業、透明性の高い経営を行っている企業などが挙げられます。例えば、太陽光発電システムを製造する企業や、女性管理職比率の向上に取り組む企業などです。
ESG関連銘柄に投資する初心者は、まずESG評価の高い企業を調べてみることをおすすめします。日本株であれば「GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)」が採用するESG指数や、「DJSI(ダウ・ジョーンズ・サステナビリティ・インデックス)」などから始めるとよいでしょう。また、ESGに特化した投資信託やETF(上場投資信託)を活用するのも一つの方法です。
ここでは、注目のESG銘柄を5つご紹介します(価格と株価推移は2025年9月5日時点の引用です。過去の値動きは、将来の株価動向を示すものではありません)。
三井物産は日本を代表する総合商社であり、資源やエネルギー、金属、化学品、食料といった多岐にわたる事業を展開しています。2025年3月期の通期決算でマテリアリティ(優先的に取り組むべき重要な課題)の見直しを行い、人権を独立した重要課題として明確化するなど、ESG経営の強化に注力しています。
脱炭素・環境対策にも積極的で、2025年4月には米国の合成燃料事業会社Infinium社への出資参画を発表するなど、クリーンエネルギー分野への戦略的な進出を進めてきました。
2026年3月期第1四半期決算(2025年4月1日~2025年6月30日)では、収益が3.2兆円(前年同期比-14.1%)、親会社の所有者に帰属する四半期利益は1,916億円(同-30.6%)と、減収・減益となりました。金属資源セグメントの減益が主な要因ですが、化学品セグメントは増益となっています。
2026年3月期通期では、親会社の所有者に帰属する当期利益が7,700億円(前年比-14.5%)と予想されています。現在の株価は3,715円、予想PERは約14倍、PBRは約1.4倍と、利益面から見ると若干の割安感があります。また、増配が予定されており、配当利回りも3.1%と高水準です。
三井物産は、人権尊重の体制明確化や脱炭素サービスの前線整備、自然資本への積極投資など、ESGの各領域で明確な対策を進めています。直近の決算では利益減となったものの、中長期的視点からは環境・社会面の取り組み強化と収益基盤の多様化が、業績の安定や株価の評価向上につながると期待されます。
伊藤忠商事は、繊維や食料、中国とのパイプに強みを持つ、日本を代表する総合商社です。「三方よし」の理念を掲げ、自社の利益だけでなくステークホルダーへの価値提供、社会課題の解決への貢献を目指す経営を実践しています。
2025年2月には、世界的な調査・格付け会社である米国S&Pグローバル社によるサステナビリティ評価で、業界最高評価の「Top 1%」を受賞し、「S&P Sustainability Yearbook 2025」のメンバーに選定されました。最高評価の栄誉に輝いた日本企業は、わずか9社です。
人的資本の分野でも高評価を獲得しており、ESGに特化した金融テクノロジー企業であるアラベスクグループのESG評価サービス「ESGブック」が集計する「人的資本スコア・プラス」では、2025年2月時点で国内首位の89.89ポイントを記録しました。これは従業員への投資や、働きやすさへの配慮が高く評価された結果です。
2026年3月期第1四半期決算(2025年4月1日~2025年6月30日)では、収益が3兆5,589億円(前年同期比-1.1%)、営業利益が1,707億円(同-10.4%)と減収・減益になった一方、当社株主に帰属する四半期純利益は2,839億円(同+37.4%)と大幅に増加しました。これは主にC.P. Pokphandの株式売却に伴う利益など、有価証券損益の増加によるものです。
2026年3月期通期では、当社株主に帰属する当期純利益は9,000億円(前期比+2.2%)を見込んでいます。現在の株価は8,617円、予想PERは約14倍、PBRは約2.1倍と、利益面から見ると若干の割安感があります。
伊藤忠商事はグローバルな総合商社でありながら、ESGの面でも世界的に高い評価を獲得している企業です。こうした取り組みと高評価の裏には、地道な体質強化と透明性があり、社会・投資家の双方から大きな信頼が寄せられています。
花王は、130年以上の歴史を持つ日用品・化学メーカーです。独自のサイエンスを通じて生活者の「QOL(Quality of Life)」向上と環境・社会課題の解決を両立させる、「Kirei Lifestyle Plan(キレイライフスタイルプラン)」をESG戦略の中心に据えています。
2025年6月には「花王サステナビリティレポート2025」が公開され、スキンプロテクション事業が前年比29%の売上増、環境性能に優れた製品(例:衣料用洗剤「アタック」、食器用洗剤「キュキュット」)の売上も24%増を記録したことが示されました。さらに、パーム油に関するトレーサビリティの確認率は88%と高い達成度を誇り、環境・人権に配慮した調達を強化しています。
2025年12月期第2四半期(中間期)決算(2025年1月1日~2025年6月30日)では、売上高が8,090億円(前年同期比+2.7%)、営業利益は694億円(同+19.9%)、親会社の所有者に帰属する中間利益は496億円(同+14.3%)と、増収・増益となりました。ケミカル事業が好調で、グローバルコンシューマーケア事業も高付加価値製品の提案などによって利益改善が進んでいます。
2025年12月期通期では、売上高が1兆6,900億円(前期比+3.8%)、営業利益は1,650億円(同+12.5%)、親会社の所有者に帰属する当期利益は1,210億円(同+12.3%)を見込んでいます。
現在の株価は6,935円、予想PERは約27倍、PBRは約3.1倍と、利益面と資産面共に割高感があります。ただし、発行済み株式の3.2%に当たる800億円を上限とする自社株買いの計画発表や、長期的な競争優位性の確立につながるESG施策を考慮すれば、これには一定の妥当性があると言えるでしょう。
花王は革新的な製品開発と高い事業成長、そしてESG戦略の拡充を同時に進める企業として注目されています。中長期的な視点で投資先を検討する上で、事業成長と環境対策を兼ね備えた花王の取り組みには、成長期待と厚い信頼が集まるはずです。
トヨタ自動車は、日本人なら誰もが知る世界的な自動車メーカーであり、近年はESG戦略、特に脱炭素への取り組みにも力を注いでいます。2025年6月には、「敵は炭素」のスローガンのもと、ハイブリッド車を中心とした累計販売2,700万台で、バッテリーEV換算で900万台相当のCO₂の削減を達成したことが発表されました。
トヨタ自動車は「全方位戦略」を掲げ、地域や顧客のニーズに応じて、ハイブリッド、プラグインHV、バッテリーEV、燃料電池など複数の動力源を併用しています。海外でも積極的に脱炭素に取り組んでおり、例えば中国では2027年からレクサス向けEVとバッテリーの開発・生産を上海でスタートさせ、脱炭素で上海市と連携する体制を構築することを発表しました。
2026年3月期第1四半期決算(2025年4月1日~2025年6月30日)では、営業収益が12兆2,533億円(前年同月比+3.5%)と増加しましたが、営業利益は1兆1,661億円(同-10.9%)、親会社の所有者に帰属する四半期利益も8,413億円(同-36.9%)と、共に減益となりました。
諸経費の増加などによる自動車事業の減益が主な要因ですが、金融事業は39.1%の増益と好調です。ただし、人や成長領域への投資は必要なものであり、必ずしも諸経費の増加が悪材料だとは言えません。
現在の株価は2,962.5円、予想PERは約15倍、PBRは約1.1倍と、特に割高感や割安感はありません。しかし、3.2%という高い配当利回りは大きな魅力です。
トヨタ自動車は明確な「敵は炭素」の理念に基づき、複数技術を組み合わせた脱炭素戦略を展開しています。欧州・中国・日本など地域ごとの市場特性にマッチしたアプローチで、カーボンニュートラルへの移行を着実に進めています。
内燃機関の進化を含めた「全方位戦略」は、安定性と成長性という両面が期待でき、ESG銘柄初心者でも投資に取り組みやすいでしょう。
Alphabetは、検索や広告、AI、クラウド事業で世界的に高い影響力を持つハイテク企業です。近年では、企業成長とESG目標の両立に向けた本格的な取り組みを加速させており、特にクリーンエネルギーの調達とAIの活用が際立っています。
2025年7月には、カナダに本社を置くオルタナティブ資産の運用会社である「ブルックフィールド・アセット・マネジメント」と、総額30億ドル規模の20年間の水力発電電力購入契約を締結しました。対象はペンシルベニア州の2つの水力発電施設で、AIやクラウド需要の増大に対応するため、今後2年間で250億ドルをペンシルベニア州および近隣の州のデータセンターの拡張に投じる計画だと報じられています。
さらに先進的なアプローチとして、グーグル内のプロジェクト組織である「Tapestry」と米国独立系統運用機関「PJM」の電力網との連携で、AIを使ったデータ処理により電力供給の最適化を図る実証プロジェクトが進行中です。これにより、6,700万人超のユーザーを持つPJMの電力網の効率・安定性向上を目指すとしています。
2025年6月期決算(2025年4月1日~2025年6月30日)では、売上が964億ドル(前年同期比+13%)、営業利益は312億ドル(同+14%)、純利益は281億ドル(同+19%)と、増収・増益を達成しました。中でも、顧客企業のAIへの需要がけん引し、クラウド部門の売り上げが32%増加と、成長を大きく後押ししました。検索広告が成熟しつつある中で、クラウドはAlphabetにとって最も強力な成長エンジンとなっています。
現在の株価は235.16ドル、実績PERは約28倍、PBRは約8.8倍と、ESG銘柄としては割高感があります。しかし、成長力の高いハイテク企業としての側面から見れば、相対的に割安感があり、安定性と将来性を兼ね備えた銘柄として期待されます。
AlphabetはAI・クラウド事業のための電力安定確保を目的として、巨額のクリーンエネルギー契約と設備投資を進めつつ、AI拡大によるカーボン排出の増加という課題と真正面から向き合っています。一方で、AIによる社会・人権への影響について株主からの情報開示要求も強まっており、ESG経営の深化と透明性の確保が今後のキーポイントの一つになりそうです。
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